偶然の山火事跡で「コーヒー」の香りに人々が喜々としたように、
「リム」との出逢いが始まった。
「k○○coffee』でいいのではないか・・・と、思っていた。
それは、若い頃からのブランドとしての安定だったのかもしれない。
今の店の移転準備を始めた頃
「次は、どんな店になるのですか?」
と、食事をしておられた若い女性に訊ねられた。
「ゆっくりと、お食事を提供できるように会席を中心に」
「でしたら、ぜひ飲んでみてほしい珈琲が在るのでお持ちしても構いませんか?」
(k○○coffeeでええやん…)と思いながらも、興味が無い訳ではなかったので
「もちろん、頂いてみます」と答えた。
後日、女性は約束通りに珈琲を持って現れた。
当時、コーヒーメーカーで淹れていたので早速に飲んでみたが、頼りない。
苦味も、酸味も感じない。香りはするが特筆すべきものでもなかった。
まぁ、コース設定の最後のコーヒー等、コーヒーであれば何でも良いみたいな店が多く、逆に、これなら出さない方がマシなのではと思っていたから、断る言葉を探しながらしばしその女性と雑談をしていたら2、30分もした頃に鼻に「スッ~」と珈琲の香りが抜けた。
「コーヒーメーカーで淹れたのに時間差で鼻に抜けるって・・・」
恋に落ちた。その女性ではなく、珈琲に。
雑談中に一生懸命その珈琲の説明をしてくれていたのだが、ほとんど聞いてはいなかった。
耳に残る単語だけを想い出し、たった今聞いた説明を掘り返してもらった。
「エチオピアの野生なんですか?」
「そうです、栽培されたものではなくエチオピアのカファ地区のリム丘陵に育ち30mほどの珈琲の木に成る豆を採取してもらったものです」
「カファですか?」
「そうです。カファです。このカファが『コーヒーのすべての語源』で濁り「カフェ」になったときかされています。この地区の『リム丘陵』で育っています」
「エチオピア100%?」
「そうです、ご存じだとは思うのですが、コーヒー豆の名前は出荷される『港』の名前がよくつかわれていると思うのですが、他国とのブレンドが殆どで、これは今までエチオピアの政府が出荷を認めなかった珈琲豆で、
エチオピア100%の証として港ではなく、地域の名前が使われています」
「わかりました。これ、わけていただけるのですか?」
「もちろんですが、いいのですか?」
「はい、と言っても『サイフォン』で淹れる勇気はないので、「ハンドドリップ」の勉強をやり直します」
これが、拓朗亭と「リム」との出逢いであった。
浅く炒れば苦味は少なく、酸味が強調され、深く炒れば酸味は消えるが苦味が突出する。
確りと炒ってあるのに「酸味」も「苦味」もさほど感じない。スッキリとした味わいは実に興味深い。
移転開業し、ハンドドリップを色々試して「これだろうな」と思っていた頃、数人のお客様から
「この珈琲はサイフォンで淹れてるんでしょう?」
と聞かれたことがある。
「いいえ、ハンドドリップで淹れさせてもらっています」
「ハンドでこの味出せるんか・・・てっきりサイフォンだと思っていた」
「時々、その様に言われる方がおられますね」
「いや、実は京都市内の或る喫茶店のマスターの紹介で来たんやけど、そいつが言うには『料理も蕎麦も確かにうまい。
けど、最後に出て来る『珈琲』がちゃんと『珈琲』でウマイねん。いっぺん確かめにいってきてもらえんか』と」
「お客さんは、確か以前の店にも・・・」
「何回か行ってるけど、珈琲は初めてや」
「それで、サイフォンか?と」
「うん。まぁ、喫茶店のマスターが悩むのはわかる。たぶんアイツ葛藤してるで」
「多くの方が『豆』だったり『ドリップパック』を買って帰られますから、美味しく飲んで頂いているとは思っていますが、
逆に『それほどには』と意見が別れていると思います」
「それでええんと違うか。嗜好品なんやから」
嗜好品・・・
蕎麦も料理も珈琲も確かに嗜好品。
「嗜好品の店・拓朗亭」でも良いのかもと。